「親に遺言を書いてもらえば十分なのか、それとも家族信託までしたほうがいいのか」
親の将来を考え始めたとき、多くの方がこの2つの間で迷います。どちらも「親の財産を家族に引き継ぐための仕組み」に見えるため、違いが分かりにくいのは当然です。
実は、遺言と家族信託は、働くタイミングがまったく違います。そのため「どちらを選ぶか」ではなく、「どう組み合わせるか」で考えるのが基本です。
この記事では、2つの違いと、それぞれでできないこと、併用するときの組み立て方を順番に解説します。
結論|遺言は「亡くなったあと」、家族信託は「生きている間から」
遺言と家族信託の一番大きな違いは、効力が始まるタイミングです。
| 比較項目 | 遺言 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 効力が始まる時期 | 亡くなったあと | 契約したときから |
| 親が認知症になったときの財産管理 | できない | 受託者(財産を託された家族)が管理できる |
| 財産を渡す先の指定 | 次の1代まで | 2代先以降まで指定できる |
| 作り方 | 法律で決められた方式で、親が1人で作る | 親と受託者が契約を結ぶ |
| あとからの変更 | 親がいつでも書き直せる | 契約で決めた方法で変更する |
遺言は、法律で決められた方式に従って作る必要があり、遺言者はいつでもその全部または一部を撤回できます。
(出典:e-Gov法令検索「民法」第960条・第1022条)
一方の家族信託は、親(委託者)と、財産を託される家族(受託者)の契約です。契約したときから、受託者が親のために財産を管理できます。
(出典:e-Gov法令検索「信託法」第3条)
「家族信託のメリットって何でしょうか? あちこちの司法書士事務所で家族信託が進められていますが、遺言書や成年後見で足りることばかりのような気がしています。」
ベストアンサー:「遺言では、「妻に相続させる」ことはできても、妻が相続したあとは、妻が売却するのも賃貸するのも自由ですから、子供に渡すという保証はできませんし、遺留分の問題もあります。」
(出典:Yahoo!知恵袋、2021年6月10日投稿/質問ページ)
この回答は、遺言の限界をよく表しています。遺言で決められるのは、基本的に「自分が亡くなったとき、誰に渡すか」までです。その先の使い道や、さらに次の世代への引き継ぎまでは決められません。
遺言があれば、親が亡くなったあとの財産の行き先は決まるんですよね?それで足りないことって、本当にあるんですか?
あります。遺言が働くのは、親が亡くなった瞬間からです。親が生きている間に認知症になり、預金が引き出せなくなったり、実家を売れなくなったりしても、遺言では何もできません。「亡くなるまでの管理」と「亡くなったあとの行き先」は、別々に準備する必要があります。
遺言ではできない3つのこと
遺言で決められるのは、亡くなったあとのことだけです。そのため、次の3つは遺言では実現できません。
| 遺言ではできないこと | 具体例 | 家族信託なら | |
|---|---|---|---|
| 1 | 親が認知症になったあとの財産管理 | 預金の引き出し、施設費用のための実家の売却 | 受託者ができる |
| 2 | 2代先までの行き先の指定 | 「自分の死後は妻、妻の死後は長男へ」 | 契約で決められる |
| 3 | 元気なうちからの管理の引き継ぎ | アパートの管理や修繕の契約を子に任せる | 契約したときから任せられる |
2代先まで決められる「受益者連続型信託」
2つ目の「2代先までの指定」は、家族信託では受益者連続型信託と呼ばれます。
受益者とは、信託した財産から利益を受ける人のことです。受益者連続型信託では、「今の受益者が亡くなったら、次はこの人」と順番を決めておけます。
たとえば、子どものいない夫婦で「自分の死後は妻に実家を残し、妻が亡くなったら自分の兄弟の子に渡したい」という場合を比べてみましょう。
| 遺言だけの場合 | 家族信託の場合 | |
|---|---|---|
| 夫が亡くなったとき | 実家は妻が相続する | 妻が次の受益者になる |
| 妻が亡くなったとき | 妻の遺言や相続で決まる(夫の兄弟の子に渡るとは限らない) | 契約どおり、夫の兄弟の子が受益者になる |
遺言だけだと、妻が相続した時点で実家は妻の財産になります。その先の行き先は、夫の希望ではなく、妻の遺言や相続で決まってしまうのです。
ただし、この順番の指定には期限があります。信託をしてから30年が過ぎたあとは、そのあとに受益者になった人が亡くなるところまでしか続きません。
(出典:e-Gov法令検索「信託法」第91条)
親はまだ元気です。認知症になってから家族信託を考えても、間に合いますか?
間に合わない可能性が高いです。家族信託は親と受託者の契約なので、親に契約内容を理解する力が必要です。認知症が進むと契約を結べなくなり、その後は成年後見制度しか選べなくなります。家族信託を考えるなら、親が元気な今が一番よいタイミングです。
家族信託だけでは足りない理由
家族信託にも、カバーできない部分があります。家族信託で管理できるのは、契約で信託した財産だけです。信託しなかった預金や車、株などは、親が亡くなったときに通常の相続の対象になります。
| 家族信託でカバーできないこと | 備えるための方法 |
|---|---|
| 信託しなかった財産の行き先 | 遺言で「信託財産以外はすべて○○に」と決める |
| 親の介護サービスや施設入所の契約 | 任意後見契約などを検討する |
| 遺言で認めてもらいたいこと(子の認知など) | 遺言で定める |
特に1つ目は見落とされがちです。たとえば実家と預金の一部だけを信託した場合、残りの預金は遺言がなければ、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。家族信託と遺言を併用すれば、すべての財産の行き先をはっきりさせられます。
家族信託で身上監護(介護や医療の契約)ができない点は、「家族信託のデメリット5つ」で詳しく解説しています。
家族信託の契約書に、親が亡くなったあとの財産の行き先も書けるんですよね?それなら遺言はいらないんじゃないですか?
信託した財産については、契約書で亡くなったあとの行き先を決められます。ただし、それは信託した財産に限られます。信託していない財産まで含めて行き先を決めるには、遺言が必要です。家族信託は「信託した財産専用の取り決め」と考えておくと分かりやすくなります。
どちらも「判断能力があるうち」しか作れない
遺言と家族信託には、大きな共通点があります。どちらも、親に判断能力があるうちにしか作れないことです。
遺言者は、遺言をする時にその能力を持っていなければなりません。
(出典:e-Gov法令検索「民法」第963条)
家族信託も契約なので、親が契約の内容を理解できることが前提です。
「基本的には認知症になってしまう前に契約を締結しておくべきことだと思いますが、 結局間に合わなかったという場合、どの位までの症状、状態だったら 発症後でも信託契約を締結できるのでしょうか?」
回答:「ただし、具体的な「軽度」という基準は一概には言えません。医師や弁護士などの専門家と相談し、症状や状態に応じて適切な判断を行うことが重要です。」
(出典:Yahoo!知恵袋、2024年6月15日投稿/質問ページ)
回答にあるとおり、「どこまでなら大丈夫か」という明確な線はありません。ぎりぎりの状態で作った遺言や信託契約は、あとで他の家族から「本当に本人の意思だったのか」と争われるおそれもあります。
だからこそ、遺言と家族信託は、親が元気なうちにセットで準備するのが理想です。認知症と診断されたあとの考え方は、「家族信託と成年後見の違いは?」で解説しています。
遺言と家族信託を両方やるとなると、親に2回も難しい話をしないといけないんですか?
いいえ、1回の相談でまとめて進められます。専門家に相談すれば、どの財産を信託し、どの財産を遺言で決めるかを一緒に設計してもらえます。公正証書で作る場合も、同じ公証役場でまとめて手続きできることが多いです。親の負担を減らすためにも、別々に進めるより一度に話すほうが効率的です。
併用するときの組み立て方
併用するときは、財産ごとに「信託で管理するもの」と「遺言で行き先を決めるもの」を割り振ります。
| 財産 | おすすめの方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 実家・アパートなどの不動産 | 家族信託 | 認知症になっても、受託者が売却や修繕の契約をできる |
| 当面の生活費・介護費用にあてる預金 | 家族信託 | 受託者が親のために引き出して使える |
| それ以外の預金・株・車など | 遺言 | 信託しなかった財産の行き先をまとめて決める |
| 2代先まで行き先を決めたい財産 | 家族信託 | 受益者連続型で順番を決められる |
遺言には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は、法務局で保管してもらう制度も利用できます。
(出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」)
家族信託の契約書を公正証書で作るなら、遺言も公正証書で作っておくと、内容の食い違いを防ぎやすくなります。家族信託の手続きの流れは「家族信託の手続きは何から?」で解説しています。
遺言と家族信託の契約で、内容が食い違ってしまったらどうなるんですか?
信託した財産は、契約した時点で受託者が管理する財産になり、親の通常の財産とは別の扱いになります。そのため、信託した財産について遺言で別の行き先を書いても、原則として信託契約の内容に従うことになります。トラブルを防ぐため、遺言には「信託した財産を除く」と明記しておくのが確実です。
福島で家族信託と遺言をまとめて相談するなら
家族信託と遺言は、内容をそろえて作ることが大切です。そのため、両方をまとめて設計できる専門家に相談するのが近道です。
| 相談したいこと | 相談先 |
|---|---|
| 財産ごとの信託・遺言の割り振り | 家族信託に詳しい司法書士・弁護士 |
| 公正証書遺言・信託契約の公正証書の作成 | 公証役場 |
| 自筆証書遺言の保管 | 法務局 |
| 相続税への影響の確認 | 税理士 |
福島地方法務局の管内には、福島・郡山・白河・会津若松・いわき・相馬の6つの公証役場があります。
(出典:福島地方法務局「公証役場一覧」)
そもそも家族信託が必要かどうか迷っている方は、「家族信託は必要ない?」もあわせてご覧ください。
福島の実家に住む親と、県外に住む私たちとで、遺言と家族信託を進めることはできますか?
できます。遺言は親が1人で作るものなので、親が住む福島県内の公証役場や法務局で手続きできます。家族信託は受託者も契約に関わるため、受託者が県外に住んでいる場合は日程の調整が必要です。どちらを福島で、どちらをオンラインや郵送で進めるかを、事前に専門家と決めておくとスムーズです。
よくある質問
遺言は一度書いたら変えられないのですか?
いつでも変えられます。遺言者は、遺言の方式に従って、いつでも遺言の全部または一部を撤回できます。
(出典:e-Gov法令検索「民法」第1022条)
ただし、認知症が進んで判断能力がなくなると、書き直しもできなくなります。
家族信託をすれば、遺留分の問題はなくなりますか?
なくなるとは限りません。家族信託で特定の家族に財産を集中させた場合でも、ほかの相続人から遺留分を主張される可能性があります。遺留分への配慮が必要なケースは、専門家に相談して設計してもらいましょう。
遺言と家族信託、費用はどちらが高いですか?
一般的には、家族信託のほうが高くなります。家族信託は契約書の作成に加えて、不動産の信託登記などの費用がかかるためです。家族信託の費用の目安は「家族信託の費用はいくら?」で解説しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。
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