親の物忘れが増えてきた。「認知症になると銀行の口座が凍結される」と聞いて焦り、調べてみると家族信託、成年後見、任意後見と似たような制度がいくつも出てくる。結局どれを選べばいいのか分からず、不安だけが大きくなっていませんか。
先にお伝えしたいのは、どの制度を選べるかは、親の今の判断能力で決まるということです。家族信託と任意後見は、親が契約の内容を理解できるうちにしか結べません。判断能力がなくなった後に選べるのは、家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」だけです。
この記事では、家族信託・任意後見・法定後見の3つの違いを1つの表で比べ、親の状態ごとに選べる制度を整理します。「診断を受けたらもう手遅れなのか」という疑問や、福島県内の相談窓口も紹介しているので、ぜひご確認ください。
結論|親の判断能力があるうちなら家族信託、なくなったら法定後見
3つの制度の一番大きな違いは、「いつ始められるか」です。
- 家族信託:親が財産の管理を家族に任せる契約。親に判断能力があるうちに結ぶ
- 任意後見:将来に備えて、親が自分で後見人を選んでおく契約。親に判断能力があるうちに結ぶ
- 法定後見:親の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所が後見人を選ぶ制度
家族信託は、信託法で定められた契約による財産管理の仕組みです。(出典:e-Gov法令検索「信託法」第3条)
任意後見は、あらかじめ本人が選んだ人に、代わりにしてもらいたいことを契約で決めておく制度です。(出典:厚生労働省 成年後見はやわかり「任意後見制度とは」)
法定後見は、本人がひとりで決めることが心配になったときに、家庭裁判所が成年後見人等を選ぶ制度です。(出典:厚生労働省 成年後見はやわかり「法定後見制度とは」)
「成年後見」と「任意後見」って、同じものじゃないんですか?
違います。成年後見制度の中に、「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。法定後見は、判断能力が落ちた後に家庭裁判所が後見人を選ぶ制度です。任意後見は、判断能力があるうちに、本人が自分で後見人を選んで契約しておく制度です。一般に「成年後見」というと、法定後見を指すことが多いです。
家族信託・任意後見・法定後見の違いを比較
3つの制度の違いを、1つの表にまとめました。
| 比較項目 | 家族信託 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|---|
| 始められる時期 | 親に判断能力があるうち | 親に判断能力があるうちに契約(効力は判断能力が落ちてから) | 親の判断能力が不十分になってから |
| 財産を管理する人 | 契約で決めた家族(受託者) | 親が自分で選んだ人(任意後見人) | 家庭裁判所が選んだ人 |
| 手続きの場所 | 公証役場(公正証書にするのが一般的) | 公証役場(公正証書が必須) | 家庭裁判所 |
| 家庭裁判所の関与 | なし | 任意後見監督人が監督する | 家庭裁判所が監督する |
| 続けてかかる費用 | 原則なし | 任意後見監督人の報酬 | 後見人に専門職が選ばれた場合の報酬 |
| 自宅の売却 | 契約の範囲内で受託者が行える | 本人の利益のためなら可能 | 家庭裁判所の許可が必要 |
| 介護・施設入所の契約 | できない | できる | できる |
任意後見契約は公正証書で結ぶことが決められており、家庭裁判所で任意後見監督人が選ばれて初めて効力が生じます。(出典:厚生労働省 成年後見はやわかり「任意後見制度とは」)また、成年後見人が本人の自宅を売るには、家庭裁判所の許可が必要です。許可を得ないで処分した場合、その処分は無効になります。(出典:裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」)
家族信託なら、成年後見でできることは全部できるんですか?
いいえ、全部ではありません。家族信託は、信託した財産の管理に特化した仕組みです。親の介護サービスの契約や施設への入所手続きなど、親本人に代わって契約をする権限は含まれません。そのため、財産の管理は家族信託、身の回りの契約は任意後見、と2つを組み合わせる家庭もあります。
親が認知症と診断されたら、家族信託は手遅れ?
「認知症」と診断されたら、もう家族信託は使えないのでしょうか。実際に、この段階で相談する人は少なくありません。
「成年後見人制度·家族信託について質問です。私の父ですけど要介護3、認知症が随分進んでます。親が認知症でも手続きできるでしょうか?」
回答:「認知症になってからでは、家族信託締結はできないです。成年後見人制度は、あなたや他の家族、認知症の方の周りの人が申し立てをします。」
回答:「家族信託は無理ですね。後見の申立は親族申立で質問者様が出来ますが、誰が後見人になるかは家庭裁判所の判断なので、質問者様が必ず後見人になるとは限りませんのでご注意下さい」 (出典:Yahoo!知恵袋、2025年1月17日投稿/質問ページ)
質問者の父親は要介護3で、認知症がかなり進んでいました。回答者はそろって「家族信託はもう結べない」と答え、選べるのは法定後見だと伝えています。
ただし、「診断を受けた=即、手遅れ」というわけではありません。大切なのは、診断名ではなく、親が契約の内容を理解できるかどうかです。
「親が認知症になると、口座凍結すると聞きました。家族信託や任意後見制度を活用したいです。これって、病院で認知症と診断されたら手遅れでしょうか?それとも銀行や役所にばれてなければまだ間に合うのでしょうか?」
回答:「家族信託も任意後見も契約です。その内容をどのくらい理解できるか、が問題であって、銀行にばれるとか、ばれないとかは別のことです。(中略)認知症の度合いがかなり重度だということであれば、任意後見契約も家族信託契約も難しいと思います。」 (出典:Yahoo!知恵袋、2024年5月4日投稿/質問ページ)
質問者は「銀行に知られなければ間に合うのでは」と考えていました。しかし回答者が指摘したとおり、問題は銀行に知られるかどうかではありません。親が契約の意味を理解できるかどうかです。
認知症の初期で、親が「誰に、何を任せるのか」を自分の言葉で説明できる状態であれば、家族信託や任意後見を結べる可能性があります。公正証書を作るときには、公証人が親本人と面談して意思を確認します。判断に迷う場合は、早めに専門家と公証役場に相談してください。
認知症の診断書が出ていても、公証人が「大丈夫」と判断すれば契約できるんですか?
可能性はあります。公証人は、本人と面談して、契約の内容を理解しているか、自分の意思で契約しようとしているかを確認します。軽度の認知症でも、その場で内容をきちんと理解できていれば契約できる場合があります。ただし、後から契約の有効性を争われるおそれもあるため、主治医の意見なども踏まえて慎重に進める必要があります。
法定後見を選ぶと、後見人は家族になるとは限らない
親の判断能力がすでに不十分な場合は、法定後見を家庭裁判所に申し立てることになります。ここで知っておきたいのが、後見人を選ぶのは家庭裁判所だという点です。
令和6年に選ばれた成年後見人等のうち、配偶者・親・子・兄弟姉妹などの親族は約17.1%でした。残りの約82.9%は、弁護士や司法書士などの親族以外が選ばれています。(出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 令和6年1月〜12月」)
| 後見人に選ばれた人(令和6年) | 割合 |
|---|---|
| 親族(配偶者・親・子・兄弟姉妹など) | 約17.1% |
| 親族以外(弁護士・司法書士など) | 約82.9% |
専門職が後見人に選ばれると、報酬がかかります。通常の後見の事務では、月額1万〜2万円程度と決められることが多く、管理する財産が多い場合はさらに高くなることもあります。(出典:長野家庭裁判所「成年後見人等の報酬額について」)この報酬は、原則として親が亡くなるまで続きます。
家族が後見人になりたいと申し立てても、弁護士さんが選ばれてしまうことがあるんですか?
あります。申立書に後見人の候補者として家族の名前を書くことはできますが、最終的に誰を選ぶかは家庭裁判所が決めます。財産が多い場合や、家族のあいだで意見が分かれている場合などは、専門職が選ばれやすくなります。「家族が必ず後見人になれる」とは考えないでください。
家族信託を選ぶとできること・できないこと
親の判断能力があるうちに家族信託を結んでおけば、財産の管理を家族に任せられます。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 信託した預金から、親の生活費や施設費を払う | 信託していない財産の管理 |
| 信託した自宅を、親が施設に入った後に売却する | 介護サービスや施設入所の契約(身の回りの契約) |
| 信託したアパートの管理や修繕 | 親の年金の受け取りなど、本人名義のままの手続き |
| 家庭裁判所を通さずに、家族で管理を続ける | 親の判断能力がなくなった後に、新しく契約を結ぶこと |
家族信託は、信託した財産については柔軟に管理できる一方、身の回りの契約までは任せられません。そのため、財産の管理は家族信託、介護や施設の契約は任意後見、と2つを組み合わせる方法もあります。
家族信託の費用やデメリットについては、「家族信託の費用はいくら?」「家族信託のデメリット5つ」で詳しく解説しています。
家族信託と任意後見を両方やると、費用も2倍かかるんですか?
それぞれに公正証書の作成費用や専門家の報酬がかかるため、1つだけの場合より費用は増えます。ただし、同じ専門家に同時に依頼すると、打ち合わせや書類の準備をまとめられるため、別々に頼むより抑えられることがあります。まずは家族信託だけで足りるのかを、専門家に相談して判断するとよいでしょう。
親の状態別に選べる制度
最後に、親の今の状態ごとに、選べる制度を整理します。
| 親の状態 | 選べる制度 | 今やること |
|---|---|---|
| 元気で、物忘れもほとんどない | 家族信託・任意後見 | 家族で話し合い、必要な制度を検討する |
| 物忘れが増えてきたが、会話や判断はできる | 家族信託・任意後見 | 早めに専門家に相談し、契約を急ぐ |
| 認知症と診断されたが、軽度 | 家族信託・任意後見(できない場合もある) | 専門家と公証役場に、契約できるか相談する |
| 認知症が進み、契約の内容を理解できない | 法定後見 | 家庭裁判所に後見開始の申立てをする |
どの段階でも共通しているのは、「早く動くほど、選べる制度が多い」ということです。まだ親が元気なうちに家族で話し合っておくことが、一番の備えになります。家族信託の具体的な進め方は、「家族信託の手続きは何から?」で解説しています。
親はまだ元気なので、もう少し様子を見てからでもいいですよね?
元気なうちが一番選択肢の多い時期です。認知症は急に進むこともあり、「様子を見ているうちに契約できなくなった」という相談は少なくありません。すぐに契約しなくても、家族で方針を話し合い、専門家に一度相談しておくだけで、いざという時に早く動けます。
福島県で相談できる窓口
法定後見の申立ては、親が住んでいる地域を担当する家庭裁判所に行います。福島県内の家庭裁判所は、福島市の本庁のほか、郡山・白河・会津若松・いわき・相馬の各支部と、田島・棚倉の各出張所があります。(出典:福島地方裁判所・福島家庭裁判所「管内の裁判所の所在地」)
家族信託と任意後見の公正証書は、公証役場で作ります。福島県内には、福島・郡山・白河・会津若松・いわき・相馬の6つの公証役場があります。(出典:福島地方法務局「公証役場一覧」)
| 相談したいこと | 窓口 |
|---|---|
| 法定後見の申立て | 福島家庭裁判所(本庁・各支部・出張所) |
| 家族信託・任意後見の公正証書の作成 | 県内の公証役場 |
| どの制度を選ぶべきかの相談 | 家族信託に詳しい司法書士・弁護士 |
どの制度がいいのか分からない段階で、専門家に相談してもいいんですか?
もちろんです。むしろ、制度を決める前の段階で相談するのが理想です。親の状態、財産の内容、家族の関係を聞いたうえで、家族信託・任意後見・法定後見のどれが合うかを一緒に考えてもらえます。初回の相談を無料で受け付けている事務所も多いので、まずは状況を伝えてみてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。
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