「親の物忘れが増えてきたので、家族信託を考えている。でも、どこに申し込めばいいのか分からない」
銀行の窓口で聞けばいいのか、役所に行けばいいのか、それとも専門家に相談すべきなのか。何から手をつければいいか分からず、立ち止まっていませんか。
家族信託が分かりにくいのは、決まった申込窓口がないからです。家族信託は銀行や保険会社が売っている「商品」ではなく、家族のあいだで結ぶ契約です。そのため、話し合い、契約書づくり、公証役場、法務局、銀行と、手続きの場所があちこちに分かれています。
この記事では、家族信託の手続きを6つのステップに分けて、「誰が・どこで・何をするのか」を整理します。必要書類や期間の目安、自分でやるか専門家に頼むかの分かれ目、福島県内の窓口も紹介しているので、ぜひご確認ください。
結論|家族信託は「銀行の商品」ではなく家族の契約
家族信託は、財産を持つ親(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理を任せる契約です。信託法では、信託の方法の一つとして、財産を預ける人と預かる人のあいだで契約を結ぶ方法が定められています。(出典:e-Gov法令検索「信託法」第3条)
つまり、「家族信託を申し込む」という窓口はありません。家族で内容を決め、契約書を作り、その契約に沿って財産の名義や口座を移していく流れになります。
「家族信託について、どう進めたらよいなわかりません 銀行とか郵便局とかが 出してるわけではなく 結局自分でするか、司法書士に頼むか、なんでしょうか? 不動産に関する家族信託をしたいのです。売却希望にあたり、名義人が親になってます。認知症が少しあるため、家族信託を利用したく、よろしくお願いします」
ベストアンサー:「家族信託(民事信託)とは、ご自身とお母様との契約です。信託契約。家族信託に詳しい司法書士に依頼するのが無難ですよ。私もやってますが、あれ(信託契約書)を自力で作るのは無理です。」 (出典:Yahoo!知恵袋、2024年6月17日投稿/質問ページ)
質問者は、銀行や郵便局に家族信託の窓口がないことに気づき、進め方が分からなくなっていました。回答者の答えは「家族信託は親子の契約で、その契約書を作るのが難しい」というものです。
家族信託の手続きで一番難しいのは、書類集めでも役所の手続きでもなく、契約書の中身を決めることです。ここさえ押さえれば、残りの手続きは流れに沿って進められます。
銀行で「家族信託をしたい」と言えば、手続きを全部やってもらえるんじゃないんですか?
いいえ、銀行が家族信託の契約書を作ってくれるわけではありません。銀行が担当するのは、契約ができあがった後の「信託口口座」の開設です。契約の内容は家族で決め、契約書は専門家の助けを借りて作るのが一般的です。
家族信託の手続きの流れ【6ステップ】
家族信託の手続きは、大きく次の6つのステップで進みます。
| ステップ | 誰が | どこで | 何をする |
|---|---|---|---|
| ①家族で話し合う | 親・子・きょうだい | 自宅など | 誰に何を任せるか、家族全員で方針を決める |
| ②信託の設計 | 家族+専門家 | 司法書士・弁護士などの事務所 | 信託する財産、受託者、終わり方などを決める |
| ③契約書の作成 | 専門家 | 司法書士・弁護士などの事務所 | 決めた内容を信託契約書の案にまとめる |
| ④公正証書にする | 親(委託者)・子(受託者) | 公証役場 | 公証人の前で契約を結び、公正証書にする |
| ⑤信託登記 | 受託者(専門家に依頼が一般的) | 法務局 | 不動産の名義を受託者に移す(不動産がある場合) |
| ⑥信託口口座の開設 | 受託者 | 銀行など | 信託した預金を管理する専用口座を作り、お金を移す |
①家族で話し合う
最初にやることは、家族での話し合いです。親が「誰に、どの財産の管理を任せたいか」を、子やきょうだいも交えて確認します。ほかのきょうだいに黙って進めると、後で「財産を独り占めしようとしている」と誤解されて、もめる原因になります。
②・③信託の設計と契約書の作成
次に、専門家と一緒に信託の中身を決めます。信託する財産、受託者(管理する人)、受益者(利益を受ける人)、信託が終わったときに財産を誰に渡すか、などを決めて、契約書の案にまとめます。この部分が家族信託の手続きの中心です。
④公証役場で公正証書にする
契約書の案ができたら、公証役場で公正証書にします。公正証書にしておくと、契約の内容と、親が自分の意思で契約したことを公的に証明できます。銀行によっては、公正証書でないと信託口口座を作れない場合もあります。
公証役場の手数料は財産の額によって決まり、信託の公正証書では、信託財産が1億円以下の場合に1万3,000円が加算されます。(出典:日本公証人連合会「12 手数料」)
⑤不動産の信託登記
自宅などの不動産を信託する場合は、法務局で信託登記をして、名義を受託者に移します。登記の手続きは、司法書士に依頼するのが一般的です。
⑥信託口口座の開設
最後に、信託した預金を管理するための専用口座(信託口口座)を銀行などで作り、親の口座からお金を移します。信託口口座を扱っていない金融機関もあるため、事前に確認が必要です。
公正証書にしないで、家族で書いた契約書だけでも家族信託は始められるんですか?
法律上は、公正証書でなくても契約は成立します。ただし、信託口口座を作るときに公正証書を求める銀行が多く、後で「親は本当に内容を理解していたのか」と争われたときの証拠にもなります。実務上は、公正証書にしておくのが安全です。
家族信託の手続きに必要な書類
必要な書類は、信託する財産や専門家の方針によって変わります。一般的には次のようなものを準備します。
| 書類 | 誰の分 | 取得する場所 |
|---|---|---|
| 印鑑登録証明書(実印) | 親(委託者)・子(受託者) | 市区町村役場 |
| 本人確認書類(運転免許証など) | 親(委託者)・子(受託者) | 手元にあるもの |
| 住民票・戸籍謄本 | 親(委託者)・子(受託者) | 市区町村役場 |
| 不動産の登記事項証明書 | 信託する不動産 | 法務局 |
| 固定資産税評価証明書 | 信託する不動産 | 市区町村役場 |
| 預金通帳のコピー | 信託する預金 | 手元にあるもの |
公証役場で本人確認に使う印鑑登録証明書は、発行から3ヶ月以内のものに限られます。(出典:日本公証人連合会「Q1. 公正証書を作成するには、どのような資料を準備しておく必要がありますか?」)早く取りすぎると使えなくなるため、公証役場へ行く日が決まってから取るのが確実です。
親が役所に行けない状態なんですが、書類は子どもが代わりに取ってもいいんですか?
住民票や印鑑登録証明書は、委任状や印鑑登録証があれば家族が代わりに取れる場合があります。ただし、公証役場での契約そのものは、原則として親本人が内容を理解したうえで行う必要があります。親が外出できない場合は、公証人に自宅や施設へ来てもらう出張の対応があるので、公証役場に相談してください。
家族信託の手続きにかかる期間は3ヶ月が目安
家族信託の手続きは、相談を始めてから信託がスタートするまで、3ヶ月前後が一つの目安です。急ぐ場合は、最短で1ヶ月強で実行できることもあります。
ただし、期間は財産の種類によって変わります。信託する財産が金銭だけなら2週間〜2ヶ月ほど、不動産が含まれると名義変更の手続きが加わるため約2ヶ月、ローンが残っている不動産を含む場合は3〜4ヶ月ほどかかることがあります。
| 信託する財産 | 期間の目安 |
|---|---|
| 金銭のみ | 約2週間〜2ヶ月 |
| 金銭と不動産 | 約2ヶ月 |
| ローンが残っている不動産を含む | 約3〜4ヶ月 |
一番時間がかかりやすいのは、①の家族での話し合いです。きょうだいの意見がまとまらないと、専門家に依頼する前の段階で何ヶ月も止まってしまいます。
親の物忘れがだんだんひどくなってきています。3ヶ月も待っていて大丈夫なんでしょうか?
親の判断能力が落ちてしまうと、家族信託の契約は結べなくなります。物忘れが進んでいる場合は、家族の話し合いと専門家への相談を同時に始めて、公正証書の作成を急ぐ必要があります。すでに判断能力がないと考えられる場合は、家族信託ではなく成年後見制度を検討することになります。
自分でやる?専門家に頼む?分かれ目はここ
家族信託の手続きは、法律上は家族だけで進めることもできます。ただ、契約書を自分で作ろうとする人に対しては、慎重な意見が多く見られます。
「家族信託を考えています。専門家のコンサルティングは経費がかさむので、基本的には自分で契約書を作成した上で、公正証書にしたいと思っています。信託の対象として、現金のほか株式を想定していますが、銀行の信託口口座のようなものは株式にはないと理解しており、どのようにすれば信託できるのかを思慮中です。(中略)本来こういうことを相談するためにコンサルティングをお願いするのだと思いますが、経費があまりに高いので、何とかコンサルティングなしで、自力でやりたいのです。」
回答:「家族信託は、専門家から見ても難しい面があると言われています。税務に関しても専門家無しで自分一人で・・・というのは危険ではないでしょうか。費用は掛かってもそれだけの価値があると思いますので、家族信託専門士という専門家に支援してもらったほうが良いです。」 (出典:Yahoo!知恵袋、2024年11月24日投稿/質問ページ)
質問者は費用を抑えるために、契約書を自分で作ろうとしていました。しかし、株式をどうやって信託するかという段階で手が止まっています。回答者は、税務も含めて専門家なしで進めるのは危険だと指摘しました。
家族信託の契約書は、財産の種類や家族の状況に合わせて一から作るものです。書き方を間違えると、いざという時に不動産を売れない、銀行が口座を作ってくれない、税金が思わぬ形でかかる、といった問題が起きます。
| 比較項目 | 自分でやる | 専門家に頼む |
|---|---|---|
| 費用 | 公証役場の手数料や登記の実費のみ | 実費+専門家の報酬 |
| 手間 | 契約書の作成から登記まですべて自分で行う | 契約書の作成と登記を任せられる |
| 失敗のリスク | 契約書の不備で、不動産の売却や口座開設ができないおそれ | 実務に沿った契約書を作ってもらえる |
| 向いている人 | 信託や税務の知識があり、財産が単純な人 | ほとんどの家庭 |
専門家に頼んだ場合の費用の目安は、「家族信託の費用はいくら?」で詳しく解説しています。
費用を抑えたいので、せめて一部だけでも自分でやることはできないんですか?
できます。住民票や印鑑登録証明書などの書類集めや、家族の話し合いは自分で進められます。一方で、契約書の設計と不動産の信託登記は、専門家に任せた方が安全です。「自分でやる部分」と「任せる部分」を分けて見積もりを取ると、費用を抑えやすくなります。
福島県内で家族信託の手続きをするときの窓口
福島県内で家族信託の手続きをする場合、公正証書の作成は県内の公証役場で行います。福島地方法務局の管内には、次の6つの公証役場があります。(出典:福島地方法務局「公証役場一覧」)
| 公証役場 |
|---|
| 福島公証役場 |
| 郡山公証役場 |
| 白河公証役場 |
| 会津若松公証役場 |
| いわき公証役場 |
| 相馬公証役場 |
不動産の信託登記は、その不動産がある地域を担当する法務局で行います。福島地方法務局には本局のほか、郡山・いわき・若松・白河・相馬の各支局と、二本松・田島・富岡の各出張所があります。(出典:福島地方法務局「不動産登記/商業・法人登記の管轄区域一覧」)
家族信託を始める前に、デメリットや「本当に必要か」も確認しておきたい方は、「家族信託のデメリット5つ」「家族信託は必要ない?」もあわせてご覧ください。
福島に住んでいる親の家族信託を、東京に住んでいる私が受託者として進めることはできますか?
できます。受託者が遠方に住んでいても、家族信託の契約は結べます。ただし、公証役場での契約には委託者と受託者の双方が関わるため、日程の調整が必要です。信託口口座を作る銀行の支店や、不動産の管理の方法も含めて、福島と東京のどちらで何をするかを専門家と事前に決めておくとスムーズです。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。
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