「認知症対策になる」「柔軟な財産承継ができる」──家族信託のメリットを紹介する記事は数多くありますが、デメリットまで具体的に説明しているものは多くありません。
メリットだけを見て契約すると、後から「思っていたのと違う」という事態になりかねません。この記事では、家族信託の5つのデメリットを具体的に整理し、それでも家族信託が適しているケースまで解説します。
デメリット①身上監護権がない(医療・介護の契約はできない)
家族信託は財産管理に特化した制度であり、身上監護(施設入所契約・医療同意・介護サービス契約など)には対応できません。
成年後見制度であれば、後見人が本人に代わって施設入所契約や医療機関とのやり取りを行えますが、家族信託の受託者にはその権限がありません。財産管理と身上監護の両方が必要な場合は、家族信託と任意後見制度を組み合わせる必要があります。
※成年後見制度とは、判断能力が低下した本人に代わり、家庭裁判所が選任した後見人が財産管理や身上監護(施設入所契約・医療同意など)を行う制度です。家族が後見人になることもあれば、弁護士・司法書士などの専門家が選ばれることもあります。
子どもが受託者になっていれば、施設に入るときの契約も代わりにできると思っていました。
そこが誤解されやすい点です。受託者はあくまで「信託財産の管理・処分」しかできません。施設の入所契約自体は本人が判断能力のあるうちに済ませておくか、任意後見契約を別途結んでおく必要があります。家族信託だけで身上監護までカバーできると考えていると、いざというときに対応できず困ることになります。
デメリット②受託者の負担が大きく、なり手がいないと成立しない
家族信託は、財産を管理する「受託者」になる家族が必要です。受託者には、信託財産の管理だけでなく、税務署への書類提出などの事務負担が継続的に発生します。
「信託財産は不動産と預貯金です。不動産の中に月極駐車場があり、父と母の共有名義になっているので2つの『信託の計算書』を作らなければいけません。これだけでも大変なのですが」 (出典:Yahoo!知恵袋 相談事例、2025年1月投稿/質問ページ)
この投稿のように、信託財産に収益不動産が含まれる場合、受託者は毎年「信託の計算書」「信託財産に係る収支計算書」などの書類を作成し、税務署へ提出する必要があります(信託財産の収益が一定額以下の場合は提出不要)。会計や申告の経験がない家族が受託者になると、この事務作業自体が大きな負担になります。
信託の計算書って、自分で作れるものなんでしょうか?
不動産所得の確定申告の経験があれば、大きな追加負担にはならないことが多いです。一方でまったく経験がない場合は、最初の作成時に税理士のサポートを受けることをおすすめします。一度書式を理解すれば、翌年以降は数字を更新する程度で対応できるようになります。
デメリット③損益通算ができないなど税務上の注意点がある
信託財産である不動産から赤字(損失)が出た場合、その損失は信託財産以外の所得と損益通算できません。また、信託財産以外に複数の不動産を所有している場合、それぞれの損益を合算することもできない点に注意が必要です。
| 項目 | 通常の不動産所得 | 信託財産の不動産所得 |
|---|---|---|
| 赤字が出た場合 | 給与所得等と損益通算できる | 信託財産以外の所得と損益通算できない |
| 複数物件の損益 | 合算できる | 信託契約ごとに区分して計算する必要がある場合がある |
| 確定申告書類 | 通常の収支内訳書 | 収支内訳書に加え、信託の計算書等の提出が必要 |
とくに、赤字が出やすい築古の収益物件を信託財産に含める場合は、この損益通算のデメリットが実際の税負担に影響することがあります。信託財産に何を含めるかを決める前に、税理士に試算してもらうことをおすすめします。
古いアパートを信託財産に入れると、税金の面で損をすることがあるということですか?
その可能性があります。修繕費がかさむ築古物件は赤字になりやすく、通常であれば給与所得などと損益通算して税負担を抑えられますが、信託財産に含めるとその通算ができなくなります。すべての収益不動産を無条件に信託財産へ含めるのではなく、物件ごとの収支見込みを踏まえて、信託に入れる財産と入れない財産を分けて設計することも検討してください。
デメリット④まだ判例が少なく、専門家によって対応が分かれる
家族信託(民事信託)の制度は、2006年に改正され2007年に施行された信託法によって本格的に利用が広がった、比較的新しい制度です。そのため、契約内容によっては判例の蓄積が少なく、専門家によって設計方針や対応が分かれることがあります。
長年の実務経験があっても家族信託の取り扱い件数が少ない専門家もいるため、依頼する際は「家族信託の対応実績」を具体的に確認することが重要です。契約書の設計に不備があると、いざ認知症が進んでから信託が機能しない、あるいは想定していなかった課税が発生するといった問題につながります。
デメリット⑤家族間の認識のズレがトラブルに発展することがある
受託者になった家族が財産管理の状況を他の家族に十分に共有しないと、「勝手に財産を使っているのではないか」という不信感が生まれ、家族間のトラブルに発展することがあります。
とくに、受託者ではない相続人からすると、信託財産の運用状況は見えにくく、情報開示が不十分なまま時間が経つほど疑念が強まりやすくなります。信託契約の締結前に家族会議を開き、信託の目的・内容を共有しておくことや、必要に応じて信託監督人・受益者代理人を設置することで、透明性を確保しトラブルを予防できます。
デメリットを理解した上で家族信託を選ぶべきケース
ここまで紹介したデメリットを踏まえても、次のようなケースでは家族信託が有効な選択肢になります。
| 家族信託が有効な選択肢になるケース |
|---|
| 収益不動産があり、認知症後も柔軟に管理・売却したい |
| 二次相続以降の財産承継先まで指定したい(孫の代まで等) |
| 障害のある子など、特定の相続人の生活を長期的に支えたい |
| 受託者になれる、信頼できる家族が確保できている |
これらに当てはまる場合は、デメリットへの対策(受託者のサポート体制を整える、信託監督人を設置するなど)をセットで検討した上で、家族信託の契約を進めることをおすすめします。
よくある質問
Q1. 受託者は1人でなければいけませんか?
複数の家族を共同受託者にすることも可能です。ただし共同受託者間での意思決定方法をあらかじめ決めておく必要があり、事務負担も分散できる一方で調整の手間が増えることもあります。
Q2. 受託者を途中で交代できますか?
信託契約の内容によります。あらかじめ後継受託者を指定しておくことで、受託者に万一のことがあった場合にも信託を継続できます。
Q3. 損益通算ができないデメリットは、どんな財産でも影響しますか?
主に収益不動産(賃貸物件)を信託財産に含める場合に影響します。預貯金のみの信託であれば、このデメリットは基本的に関係ありません。
Q4. デメリットが心配な場合、何から始めればいいですか?
まずは家族信託の対応実績が豊富な専門家に相談し、ご自身の財産構成でどのデメリットが実際に影響するかを確認することをおすすめします。
Q5. デメリットを避けるために、信託財産を絞ることはできますか?
可能です。すべての財産を信託する必要はなく、管理を柔軟にしたい財産(収益不動産など)だけを信託財産に選ぶことで、事務負担や税務上の複雑さを抑えられます。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。
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