「家族信託をすると、親の家が子どもの名義になる。それって贈与にならないの?」
家族信託を検討し始めた方の多くが、最初にこの疑問にぶつかります。不動産の名義を変えるのですから、贈与税や不動産取得税がかかるのではと不安になるのは当然です。さらに、「受託者になると毎年税務署に書類を出す必要がある」と聞いて、二の足を踏んでいる方もいるかもしれません。
結論から言うと、親が自分のために財産を託す一般的な家族信託なら、贈与税はかかりません。ただし、受託者には毎年の税務の手続きがあり、信託ならではの注意点もあります。
この記事では、家族信託の税金を「設定するとき」「信託している間」「親が亡くなったとき」の3つのタイミングに分けて整理します。
結論|親が受益者なら、信託しても贈与税はかからない
家族信託の税金を理解するカギは、税金は名義人(受託者)ではなく、利益を受ける人(受益者)を基準にかかるという考え方です。
所得税法では、信託の受益者が、信託財産に属する資産や負債を持っているものとみなし、信託財産から生じる収益や費用も受益者のものとみなして課税します。(出典:e-Gov法令検索「所得税法」第13条)
一方、贈与税は、適正な対価を負担せずに信託の受益者になった人に課税されます。(出典:国税庁「No.4427 新たに信託の設定等を行った場合」、e-Gov法令検索「相続税法」第9条の2)
| 信託の形 | 委託者 | 受益者 | 贈与税 |
|---|---|---|---|
| 自益信託(一般的な家族信託) | 親 | 親 | かからない |
| 他益信託 | 親 | 子・孫など親以外 | 受益者に贈与税がかかる |
親を委託者兼受益者にする自益信託なら、名義は子(受託者)に移っても、税金の上では財産は親のもののままです。そのため、贈与税はかかりません。
登記簿の名義が子どもに変わるのに、税務署は本当に贈与だと思わないんですか?
思いません。税金の上では、信託財産は受益者である親のものとして扱われるからです。受託者の子どもは、親のために財産を管理する役割を引き受けただけで、財産をもらったわけではありません。ただし、受益者を親以外にすると贈与税の問題が出るため、契約書で受益者を誰にするかは必ず確認してください。
設定時にかかる税金|登録免許税・不動産取得税
家族信託で不動産を信託すると、法務局で登記をします。このときにかかる税金は次のとおりです。
| 税金 | 家族信託を設定したとき | 根拠 |
|---|---|---|
| 登録免許税(所有権の移転の登記) | かからない | 登録免許税法第7条 |
| 登録免許税(信託の登記) | 原則として固定資産税評価額の1,000分の4 | 登録免許税法 別表第一 |
| 不動産取得税 | かからない | 地方税法第73条の7 |
(出典:e-Gov法令検索「登録免許税法」、e-Gov法令検索「地方税法」第73条の7)
委託者から受託者に信託のために財産を移す場合の所有権の移転登記には、登録免許税がかかりません。かかるのは信託の登記の分で、所有権の信託の登記は原則として不動産の価額の1,000分の4です。土地については、期間限定の軽減措置があります。
不動産取得税も、委託者から受託者に信託財産を移す場合の不動産の取得には課されません。売買や贈与で名義を変えるのに比べて、設定時の税負担は小さく抑えられます。
信託登記を含む家族信託全体の費用は「家族信託の費用はいくら?」で解説しています。
固定資産税評価額が2,000万円の実家を信託すると、登録免許税はいくらになりますか?
原則の税率で計算すると、2,000万円×1,000分の4で8万円です。土地には軽減措置があるため、実際には土地と建物を分けて計算し、これより少なくなることがあります。このほか、司法書士に登記を頼む場合は報酬がかかります。
信託している間の税金と、受託者がやる毎年の手続き
信託している間の税金は、「誰に通知が届くか」と「誰が申告するか」が分かれる点に注意が必要です。
| 項目 | 誰が対応するか | 内容 |
|---|---|---|
| 固定資産税 | 受託者に納税通知書が届く | 登記上の所有者が受託者になるため。支払いは信託財産から行う |
| 所得税(家賃収入など) | 受益者(親)が確定申告する | 信託財産から生じた収益は受益者のものとみなされる |
| 信託の計算書 | 受託者が税務署に提出する | 翌年1月31日までに提出 |
(出典:e-Gov法令検索「地方税法」第343条、e-Gov法令検索「所得税法」第13条、国税庁「F1-33 信託の計算書(同合計表)」)
固定資産税は、登記簿に所有者として登記されている人に課されるため、信託登記をすると受託者あてに納税通知書が届きます。受託者は、信託の計算書を作成し、翌年1月31日までに税務署に提出する必要があります。また信託法では、受託者は毎年1回、一定の時期に、貸借対照表や損益計算書などの書類を作り、受益者に報告しなければならないとされています。(出典:e-Gov法令検索「信託法」第37条)
「家族信託の税務署への提出書類のことについて質問があります。 父と母が委託者・受益者、私が受託者です。 信託財産は不動産と預貯金です。 不動産の中に月極駐車場があり、父と母の共有名義になっているので2つの「信託の計算書」を作らなければいけません。 これだけでも大変なのですが。 貸借対照表と損益計算書もつくらなければならないという話を聞きました。」 (出典:Yahoo!知恵袋、2025年1月28日投稿/質問ページ)
この相談者のように、両親それぞれと信託契約を結ぶと、信託ごとに書類を作る必要があります。駐車場やアパートなど収益を生む不動産を信託する場合は、受託者の事務負担が大きくなることを、契約前に知っておきましょう。
不動産の赤字は切り捨てられる
もう一つ注意したいのが、信託から生じた不動産所得の損失の扱いです。信託の受益者である個人の、信託から生じた不動産所得の損失は「生じなかったもの」とみなされ、他の不動産所得の黒字から差し引くことも、給与などとの損益通算もできません。(出典:国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」)
たとえば、信託したアパートが大規模修繕で赤字になっても、信託していない別のアパートの黒字と相殺できません。収益物件を信託するときは、どの物件を信託に入れるかを税理士と相談してください。家族信託の税務上のデメリットは「家族信託のデメリット5つ」でも解説しています。
決算書なんて作ったことがありません。受託者になったら、毎年税理士に頼まないといけないんですか?
必ずしも税理士に頼む必要はありません。自宅と預貯金だけを信託している場合は、収支が単純なので、受託者自身で作成している家庭もあります。一方で、駐車場やアパートなど家賃収入がある不動産を信託している場合は、信託の計算書と受益者の確定申告が連動するため、税理士に依頼したほうが安全です。
信託した実家を売るときの税金
家族信託の大きな目的の一つが、親が認知症になった後でも実家を売れるようにすることです。売るときの税金も、受益者を基準に考えます。
親が住んでいた家を売るときは、居住用財産の3,000万円特別控除などの特例が使える場合があります。ただし、家族信託では「誰が受益者か」によって、特例を使えるかどうかが変わることがあります。
「2024年4月に、自宅(・父の単独所有 ・父の所有日:1970年)を、家族信託(・委託者兼受益者:父 ・受託者:長男 ・父死去の場合の二次受益者:母(認知症) ・母死去後は2人兄弟で1/2づつ相続)としました(公正証書)。 2025年11月1日に父(93歳 意思能力あり)と母(85歳 認知症)が高齢者施設に入居し、自宅は空き家となりました。」
回答:「母へ受益権が移転した後に売却した場合、3,000万円特別控除は適用不可となる可能性が高いと考えられます。さらに、10年超居住用の軽減税率14.21%になるともいえず、むしろ一般の長期譲渡所得課税20.315%で考えるのが原則です。」 (出典:税理士ドットコム、2026年3月31日投稿/相談ページ)
回答した税理士は、母は父が亡くなるまで受益者ではなく、税務上の所有者でもなかったため、母が所有者として住んでいたとは言いにくい、と説明しています。父が受益者のうちに売れば特例が使えたかもしれないのに、売る前に父が亡くなると使えなくなる可能性がある、ということです。
このように、信託した不動産を売るタイミングによって、税金が数百万円単位で変わることがあります。売却を考え始めたら、受益者が誰か、いつまでに売るべきかを税理士に確認してください。
家族信託をしておけば、親が施設に入った後でも、いつ売っても同じ税金だと思っていました。
売ること自体は受託者の判断でできても、税金は受益者の状況で決まります。とくに、受益者が亡くなって次の受益者に変わった後は、使える特例が変わることがあります。空き家になった実家を売る予定があるなら、受益者が元気なうちに売却のスケジュールを立てることが大切です。
親が亡くなったとき(信託終了時)の税金
家族信託をしても、相続税が減るわけではありません。受益者である親が亡くなると、信託の受益権や、信託終了時に財産を受け取る権利は、相続や遺贈によって取得したものとみなされ、相続税の対象になります。(出典:e-Gov法令検索「相続税法」第9条の2)
| 親が亡くなったときの扱い | 税金 |
|---|---|
| 次の受益者(母など)に受益権が移る | 母が遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象 |
| 信託が終了し、子が財産を受け取る | 子が遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象 |
| 小規模宅地等の特例など相続税の特例 | 要件を満たせば、信託した財産でも使える場合がある |
信託が終了して財産を受け取る人に名義を移すときは、所有権の移転登記に登録免許税がかかります。委託者のみが元本の受益者である信託で、信託の当初から委託者である人に財産を戻す場合などには、非課税になるケースもあります。(出典:e-Gov法令検索「登録免許税法」第7条)
家族信託は相続対策だと聞いたので、相続税も安くなると思っていました。違うんですか?
違います。家族信託の目的は、親が認知症になっても財産を管理・処分できるようにすることで、相続税を減らす効果はありません。信託した財産も、親が亡くなれば相続税の計算に含まれます。相続税の対策をしたい場合は、家族信託とは別に、生前贈与や不動産の活用などを税理士と検討してください。
【一覧表】3つのタイミング別・かかる税金とかからない税金
ここまでの内容を一覧にまとめます。
| タイミング | かかる税金 | かからない税金 |
|---|---|---|
| 設定するとき | 信託の登記の登録免許税(原則1,000分の4) | 贈与税(自益信託の場合)、不動産取得税、所有権移転登記の登録免許税 |
| 信託している間 | 固定資産税(受託者に通知)、受益者の所得税・住民税 | 受託者個人の所得税(信託財産の収益について) |
| 信託財産を売るとき | 受益者の譲渡所得税(特例は受益者基準で判定) | ― |
| 親が亡くなったとき | 相続税(受益権を取得した人)、名義を移すときの登録免許税 | ― |
受託者の手続きとして、毎年の信託の計算書の提出と、受益者への報告も忘れないようにしましょう。
これだけ税金のルールがあると、家族信託をやめたほうがいいのかと迷ってしまいます。
迷う必要はありません。自宅と預貯金を親のために管理する一般的な家族信託なら、設定時の税金は登録免許税が中心で、贈与税はかかりません。注意が必要なのは、収益物件を信託する場合と、受益者を親以外にする場合です。契約書を作る前に税金の確認をしておけば、後から困ることはほとんどありません。
福島で家族信託の税金を相談するなら
家族信託の税金は、契約書の内容によって変わります。そのため、契約書を作る司法書士や弁護士と、税金を確認する税理士の両方に相談しておくことが大切です。
| 相談したいこと | 相談先 |
|---|---|
| 信託契約書の作成・信託登記 | 司法書士・弁護士 |
| 贈与税・相続税の確認、信託の計算書、確定申告 | 税理士 |
| 信託の計算書の提出先・書き方 | 税務署 |
福島県内の公証役場や法務局など、手続きの窓口は「家族信託の手続きは何から?」で紹介しています。受託者を誰にするかで迷っている方は「家族信託の受託者は誰にする?」もあわせてご覧ください。
福島の実家を東京に住む私が受託者として管理する場合、税務署の手続きはどこでするんですか?
手続きの窓口は、手続きごとに分かれます。固定資産税の納税通知書は、実家のある福島県内の市町村から受託者あてに届きます。一方、信託の計算書は受託者が税務署に提出し、家賃収入などの確定申告は受益者である親が行います。東京と福島のどちらで何をするかを一覧にしておき、提出先の税務署は事前に確認しておくと安心です。
よくある質問
家族信託で相続税は減りますか?
減りません。受益者である親が亡くなると、信託に関する権利は相続や遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象になります。(出典:e-Gov法令検索「相続税法」第9条の2)
受託者報酬を受け取ると税金はかかりますか?
信託契約で受託者が信託報酬を受け取ると定めた場合、受託者は報酬を受け取れます。(出典:e-Gov法令検索「信託法」第54条)受け取った報酬は受託者個人の所得になり、金額や他の所得によっては確定申告が必要です。報酬を設定するかどうかは、兄弟の納得感も含めて決めましょう。
受益者を孫にすると何が問題ですか?
適正な対価を負担せずに孫が受益者になると、孫が親(祖父母)から贈与を受けたものとみなされ、贈与税がかかります。(出典:国税庁「No.4427 新たに信託の設定等を行った場合」)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。
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